岡山地方裁判所 昭和25年(モ)52号 判決
債権者 全日本金属労働組合岡山支部汽車会社分会
右代表者 組合長
債務者 汽車製造株式会社
一、主 文
当裁判所が当庁昭和二十五年(ヨ)第六六号解雇の効力停止等仮処分申請事件に付き昭和二十五年四月二十六日なした仮処分決定は之を取消す。
債権者の右仮処分申請は之を却下する。
第一項に限り仮に執行することができる。
訴訟費用は債権者の負担とする。
二、申立の趣旨
債権者訴訟代理人は、「昭和二十五年(ヨ)第六六号解雇の効力停止等仮処分申請事件に付き岡山地方裁判所が昭和二十五年四月二十六日なした仮処分決定を認可する。訴訟費用は債務者の負担とする。」との判決を求めた。
三、事 実
(一) 債権者分会は全日本金属労働組合に属する分会で汽車製造株式会社岡山製作所の従業員を以て組織する労働組合であり、債務者会社は本社を東京に、製作所を東京、大阪、岡山の三個所に有している会社である。債務者会社と其の従業員との間に於いては各製作所毎に労働組合が組織され、その各々が右全日本金属労働組合の分会になれると同時に、三労働組合が連合会を組織して、夫々製作所債務者会社と団体交渉を行うこととなつて居り、連合会と債務者会社間には昭和二十四年十月十一日締結昭和二十五年四月末日迄を有効期間とする労働協約が存在して居る。
(二) 債務者会社は昭和二十五年三月二十七日岡山製作所に於て同所長をして同年四月五日を以て同所の操業を一時休止する旨通告をなさしめ、次いで同月二十九日連合会に対し右操業休止に付き同年四月三日中央交渉委員会を開催し、連合会と協議してもいい旨の通達をなした。右措置は債権者分会組合を含むものであつて、協約中の従業員を維持する義務(第五条)及び、止むを得ぬ解雇に付いては組合と協議決定して行う旨の規定(第十五条第一項第三号第二項)に違反しているものであるから債権者分会は曩に御庁に申請して前記中央交渉委員会の団体交渉が終る迄は右解雇をしてはならない旨の仮処分決定を得た。
右決定に従い同年四月四日より四日間右中央交渉委員会に於いて団体交渉をしたけれども、協議調わず打切りとなつた。
斯様な場合双方は決裂後三日内に再交渉の義務がある(協約第七十九条)に拘わらず、債務者会社は右義務を無視して同月十七日債権者分会組合員の一齊解雇を通告した。
然し右解雇は次の諸点に於いて協約に違反する。
1 第五条に依れば、債務者会社は従業員を維持する為凡ゆる合理的施策を講ずべきであるに拘らず、之をなさず、中央交渉委員会に於いても連合会にこれを納得させていない。
2 解雇を伴う工場閉鎖は中央交渉委員会の交渉、再交渉による会社と組合の協議決定が必要であるに拘わらず、本件交渉に於いては、実質的協議が行われず事後の説明をしたに過ぎない。
(三) 斯の如く本件解雇処分は明らかに協約に違反し、ひいては前記仮処分決定にも違反するものであつて無効であるから、債権者分会は本件解雇の効力を争うとともに債務者会社の協約遵守を命ずる旨の訴を提起すべく準備中であるが、右本訴を待つていては其の間債権者分会員は不当に職を奪われ会社再建、退職金等に付き団体交渉も不能となり(協約第三条)実力闘争による外なきに至り償い得ぬ損害を受けることとなるので本件仮処分申請に及んだ次第である。と述べた。(疎明省略)
債務者訴訟代理人は、主文第一、二及び四項と同旨の判決を求め、
本案前の答辯として、本件解雇処分は個々の従業員に対してなしたものであるから債権者分会に当事者適格がない。と述べ、本案に付き、
(一) 債権者分会主張事実中、債権者分会、債務者会社の組織、所在地等の点、協約の締結日有効期間、(但し昭和二十五年三月三十一日債務者会社は改廃の意思表示をした。)同年三月二十七日の操業休止の通告、同月二十九日の中央交渉委員会開催の通達、仮処分決定の存在、同年四月四日より四日間の中央交渉委員会の開催とその協議不調に帰した点、同月十七日の解雇通告の点は何れも認めるが、本件解雇は協約乃至仮処分に違反して居るものではない。
即ち解雇に至つた経過及び協約の意義に付いては次の通りである。
(二) 本件工場閉鎖解雇は債務者会社が約十億円の借入金と年間約二億円の損失を生ずる苦況にある為岡山製作所の生産がコスト高で採算不能のところから会社の存続発展上止むなしと認め従業員維持に万全の努力を尽した上で行つたもので右解雇は協約第十五条第一項第三号に該当するものであるとして操業一時休止と従業者の全員解雇を昭和二十五年四月五日と予定して同年三月二十七日説明書を添え債権者分会に協議を求め、三月二十七日より三十一日迄四囘に亙つて岡山製作所に於ける団体交渉、四月四日より七日迄四囘に亙つて中央交渉委員会に於ける団体交渉、同月十日より十七日迄数囘に亙つて岡山製作所に於ける団体交渉の前後十数囘の交渉をし、更に協議の余地なき程の協議を経た上、同年四月十七日の解雇通告をしたものである。
(三) 解雇に付き組合と協議決定をするとの規定(協約第十五條第二項)及び交渉委員会の目的規定(同第七十四条)を綜合すれば右協議決定は飽く迄会社と組合(連合会ではない。)との自由な団体交渉によるべきものであり、交渉委員会で行う必要はなくたゞ交渉委員会で交渉しても差支えないだけのものである。このことは協約の構成を一覧すれば明白である。即ち、協約には団体交渉に二種を認め、経営協議会で協議すべき形式的制約を受けて居る事項と右の様な拘束を受けぬ自由な団体交渉によるべき場合とがあり、協約に労働条件その他の基準準則等が規定された事項に付いては自由な団体交渉によるべく、右定めのない事項に付いては制約された形の団体交渉によるものとし、前者に付いては基準が明記してあるので第三者の裁定に附せられ、後者に付いては交渉が成立しない場合は直ちに争議に入ることを避ける為再交渉をなす建前となつて居る。
債務者会社の申出た、中央交渉委員会は岡山製作所の閉鎖解雇の問題が他の製作所へ波及することを惧れ労働関係の安定を求めるため(協約第六十五条第七号)行つたものであつて解雇が本来交渉委員会の附議事項であるとして行つたものではない。
(四) 協約に定めた再交渉(第七十九条)は会社と連合会或いは組合間の協議が決裂した場合即時争議に入ることを防止する為め冷却期間を置いて定められたもので、其の組織、交渉手続等に於て交渉委員会に於ける如き交渉手続の規定、立会人員の制限等が削除されて来たその制定の経過から見ても交渉委員会とは異なつた、形式に捉われぬ自由な団体交渉を意味して居るに過ぎない。此のことは前記の如く解雇に関する協議が会社組合間の自由な団体交渉の對象となつて居ることと相俟つて、本件の如く一旦中央交渉委員会にて交渉した解雇の問題であつてもその再交渉は中央交渉委員会に於いてなすを要するものでないと解すべき理由となるものであつて、且前記四月十日以後の団体交渉が岡山製作所で為されたのは中央交渉委員会に於いて特に連合会の申入があつたのに因るものであるから本件再交渉は中央交渉委員会で為さるべきであるとの債権者分会の主張は理由なく、右四月十日以後岡山製作所に於て為された交渉は即ち再交渉である。
(五) 以上の次第であり債務者会社のなした本件解雇は協約の規定に適合するものであり、仮処分決定にも違反するものではない。
従つて債権者分会の解雇の効力停止及び中央交渉委員会開催の仮処分申請は理由がない、と述べた。
(疎明省略)
四、理 由
先ず債権者分会に本件仮処分申請の当事者適格があるか否かに付いて按ずるに、凡そ労働組合は、労働者の地位の改善向上等を目的とし使用者との間に労働協約を締結し、使用者に協約違反の行為があつた時はその違反処分の効力を争い其の遵守方を求めることは当然であり、民事訴訟法第四十六条に則り組合の名に於いて之に関し訴訟を提起することが出来るものと謂わなければならない。
而して本件当事者間には、債権者分会等を下部組織として組織された連合会と債務者との間に締結された労働協約(疏甲第一号証の一は其の写であり成立及び原本存在に付き当事者間に争いがない。)が本件解雇当時効力を有して居たことは当事者間争いなく、右第十五条第二項によれば同条第一項の解雇に付いては予め組合と協議決定すべき旨定められているから、組合(後記の如く分会を指すもの。)は本件解雇を協約違反の無効な処分として争い得るものと認められるので、債権者分会に解雇無効等を理由とする本件仮処分申請に付いて当事者適格があるものと認める。
そこで本案につき按ずるに、債務者会社が昭和二十五年四月十七日債権者分会員に対し一齊に解雇の通告をしたことは当事者間に争のないところであつて、債権者分会は右解雇は会社が協約第五条に依つて負う凡ゆる合理的施策を講じて従業員を維持する義務に違背しこれについて何等施策を講ぜずしてなしたものであるから無効であると主張し、前記甲第一号証の一の協約第五条に依れば会社は企業整備其の他重大なる経営上の支障が起つても凡ゆる合理的な施策を講じて従業員を維持する様努力するものとする旨の規定があるが、成立に争のない乙第一号証、第二号証の一乃至三証人島崎浩蔵の証言を綜合すれば会社は諸種合理的施策を講じて従業員を維持するに努力したことを認めるに十分であるから右主張は採用し難く、又債権者分会は解雇を伴う閉鎖は中央交渉委員会の交渉、再交渉による会社と組合の協議決定を要するのに拘らず会社は事後の説明をするのみで実質的協議をしなかつた点に於て協約に違反するものであると主張するので考察するに、前記乙第一号証第二号証の一乃至三、成立に争なき乙第六号証(甲第三号証に同じ。)証人増田富夫の証言に依り成立を認め得る乙第七号証の一乃至三、証人中村利明(一部)、島崎浩蔵、増田富夫の各証言、債権者代表者立川勝一訊問の結果の一部を綜合すれば、本件解雇を伴う工場閉鎖は経理上会社存続のために必至の情勢にあること本件閉鎖並に解雇については債務者会社は解雇前、昭和二十五年三月二十七日より同月三十一日まで四日に亙り岡山製作所に於て分会と、同年四月四日より同月七日まで四日に亙り連合会の希望に基き合意の上東京本社に於て連合会と、更に同月十日より十六日まで七日に亙り連合会の申出に基き合意の上岡山製作所に於て分会と団体交渉により協議を尽し意見の一致を図つたがその一致を見るに至らないので翌四月十七日解雇の通告をしたことを疏明するに足る。尤も右団体交渉に於て解雇に関する凡ての問題が協議せられたかについては異論のあり得るところではあるが、前記乙第二号証の一乃至三に依れば、会社は少くも誠意を以て解決に努力したけれども、組合側に於ては会社幹部の責任糾明等特殊の問題の審議に固執して日時を費し、円滑な議事進行を図るの努力に十分でなかつたことを疏明し得るから、斯る場合に於ては右協議不十分を以て会社の責に帰することができないものといわなければならない。而して本件解雇が協約第十五条第一項第三号に基きなされたものであることは当事者間に争のないところであつて、同条第二項に依れば前項各号による解雇に付ては予め組合と協議決定するものとすと規定しあるところ、右に組合とあるは製作所労働組合たる分会を指すものであることは協約前文に依り明であり、右に協議決定とあるは双方協議を尽し意見の一致を図ることを謂い、その協議は製作所交渉委員会に於て之をなすべきものであつて、中央交渉委員会の於て之を為すを要するものでないことは成立及び原本の存在につき争なき甲第一号証の二(覚書)前記甲第一号證の一協約第六十五条第七号、第七十四条、第七十五条、竝に、右第十五条第二項の組合とは分会を指称するものであること前示の如くであることと、本件解雇が岡山製作所と債権者分会間の問題であることを綜合し之を疏明するに足り、又協約第七十九条に依れば会社と分会とは交渉委員会にて協議整はず交渉が打ち切られたときは其の日から三日以後に再交渉を開始するものとする旨規定せられているが、その所謂再交渉とは、交渉委員会と異りその構成、手続等に関する協約第七十五条乃至第七十七条等の制約なき交渉委員会の例によらない団体交渉であつて、第一囘の団体交渉が中央交渉委員会で行われたものに付ても再交渉は中央に於て之を為すを要しないものと解すべきこと証人増田富夫、中村利明の各証言に依つて真正に成立したものと認められる乙第四号証、証人増田富夫の証言、証人中村利明の証言の一部に依り、疏明し得べく、是に由て之を觀れば本件閉鎖並に解雇につき会社がその通告に先だち前記の如く右三月二十七日より三十一日まで岡山製作所に於て分会と製作所交渉委員会を、次で四月四日より七日まで本社に於て連合会と中央交渉委員会を持つて協議したが、協議が調わず交渉が打ち切られたので更に同月十日から十六日まで岡山製作所に於て分会と再交渉をした上閉鎖並に解雇を通告したものと認めるのを相当とし、本件解雇は協約に違背するところなきものと謂はなければならない。証人中村利明、増田富夫、債権者分会代表者立川勝一の各供述中右認定に反する部分は措信し難く他に右認定を左右するに足る疏明はない。債権者分会は本件解雇は前記仮処分命令に違反する旨主張するが、右仮処分命令は前記中央交渉委員会の交渉が終る迄解雇をしてはならない旨を命令したものであつて(その命令が発せられたのは昭和二十五年四月四日である。)右中交を終へその後再交を経て為された本件解雇を以て右命令に反するものと謂うを得ざること勿論である。
然らば本件解雇は有効であるから曩に為された主文第一項記載の仮処分決定は之を取消し、本件仮処分申請は之を却下すべきものとし、仮執行につき民事訴訟法第七百五十六条の二、訴訟費用につき同法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 中島貢 菅納新太郎 辻川利正)